受託開発の著作権の帰属|「譲渡する」と書くだけでは、改変の権利は受託側に残ると推定される
著作権法61条2項は、27条と28条の権利を名指ししない譲渡に推定を置いている。
会社員が仕事で書いたコードの持ち主から、モデル契約の3案、署名の前に見る5か所まで、条文で整理した。
受託開発の契約書に「著作権を譲渡する」とだけ書いてあると、改変の権利は受託側に残ったものと推定される。
著作権法61条2項がそう定めている。
「全部渡したつもり」と「全部もらったつもり」が、条文の上ではずれることがある。
この記事は、著作権法の条文、IPAと経済産業省の「情報システム・モデル取引・契約書 第二版」、知的財産高等裁判所の判決の要旨を読んで、僕が理解した範囲で整理したものだ。
僕は受託開発の会社に勤める会社員で、弁護士ではない。
うちの会社の契約の中身を書いた記事でもない。
実際の契約は、会社の法務や弁護士に確かめてほしい。
会社員が仕事で書いたコードの著作者は、会社になる
最初の持ち主を決めるのは著作権法15条2項だ。
会社の発意にもとづいて、その業務に従事する人が職務上作ったプログラムは、契約や勤務規則に別の定めがない限り、会社が著作者になる。
同じ条の1項にある「会社の名義で公表する」という条件は、プログラムを定めた2項には無い。
つまり僕が仕事で書いたコードの著作者は、原則として僕ではなく、うちの会社だ。
著作権に登録などの手続きはいらない。
17条2項が、どんな方式の履行も要しないと定めている。
お金を払っただけで著作権が移る、という条文は見当たらない
僕が読んだ範囲では、開発費を払えば著作権が発注者へ移る、という条文は著作権法に無い。
61条1項は「譲渡できる」と言っているだけで、移すには譲渡の合意がいる。
だから契約書に何も書かなければ、著作権は受託した会社に残ると僕は読んでいる。
発注者が困るかというと、すべてが止まるわけではない。
モデル契約の解説は、プログラムの一定の改変や複製は複製物の所有者にも著作権法で認められていて、著作権を持たないユーザーでも保守運用を外へ委託できると説明している。
ただ、別の製品へ転用するような使い方は、この範囲とは別の話になる。
「譲渡する」と書いても残る権利がある
ここが今回の本題だ。
61条2項は、譲渡の契約で27条と28条の権利が「譲渡の目的として特掲されていないとき」は、譲渡した者に留保されたものと推定する、と定めている。
27条は翻案権で、著作物を変形したり翻案したりする権利だ。
28条は、そうしてできた二次的著作物の利用について、元の著作者が持つ権利だ。
「著作権の一切を譲渡する」と書いても、この2つを名指ししていなければ、受託側に残った扱いから話が始まる。
モデル契約の第45条は、どの案でも「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」と括弧書きで入れている。
僕はこれを、61条2項への手当てだと読んだ。
推定は覆ることがある。ただ、判決まで分からない
「推定」なので、反対の事情が示されれば結論は変わる。
知的財産高等裁判所の平成18年8月31日判決(平成17年(ネ)第10070号)は、振動制御器に組み込まれたプログラムの事例だ。
契約で翻案権が特掲されていなかったので、裁判所はいったん61条2項の推定を当てはめた。
そのうえで、交渉の経緯と条項の内容から、翻案権を発注側に帰属させる合意があったと判断した。
開発した側はこの事件で負けている。
書いていなければ受託側のもの、と安心できる話でもないわけだ。
契約解除についての判断もある。
この事例では、仮に解除が有効でも効力は将来に向かうだけで、すでに移った権利は戻らないとされた。
僕の考えでは、書き忘れは片方に得をさせるのではなく、争いの種を残す。
裁判までいって初めて分かる状態は、発注側にも受託側にも良くないと思う。
モデル契約には3つの案がある
IPAと経済産業省のモデル契約は、著作権の帰属について3つの案を用意している。
- A案:すべての著作権を受託側(ベンダ)に帰属させる。
- B案:汎用的に使えるプログラムなどは受託側、それ以外は発注側(ユーザ)へ。委託料の完済時に移り、移転の対価は委託料に含む。
- C案:汎用的に使えるプログラムなどは受託側、新たに生じたプログラムの著作権は共有。時期は委託料の完済時か、検収完了時から選ぶ。
どの案でも、受託側や第三者が前から持っていたものは動かないようにできている。
解説には、ユーザー側とベンダー側それぞれの言い分も載っている。
ユーザー側はノウハウの流出防止と、開発費を負担していること。
ベンダー側は、共通部品の再利用が生産性と信頼性を上げること。
第46条は、秘密を守る範囲で、ベンダーが自分の持つ納入物を再利用できる形にしている。
解説は、知的財産権の帰属を、契約の前の提案・見積もりの段階で条件として説明する、としている。
僕はここがいちばん実務に効くと思う。
署名の直前に帰属でもめると、値段の話までやり直しになるからだ。
準委任と請負の違いと同じで、見積もりの前に決めておく項目だ。
著作者人格権は、譲渡できない
もう1つ、見落としやすい権利がある。
著作者人格権は59条で一身に専属し、譲渡できないとされている。
だからモデル契約では、受託側が「著作者人格権を行使しないものとする」という書き方になる。
譲渡の条文があっても、この一文が無ければ話は片づかない。
署名の前に確かめたい5か所
ここからは僕の考えだ。
受託する側の会社員として、契約書の案を見る時に確かめたいのは次の5か所になる。
- 著作権はどちらに帰属するか。「納入物」にソースコードが含まれるか。
- 譲渡するなら、27条と28条の権利を名指ししているか。
- 権利が移る時期は、検収か、代金の完済か。検収の日とお金が入る日はズレる。
- 会社が前から持っていたコードや共通部品が、譲渡から外れているか。
- 著作者人格権の扱いが書いてあるか。
気になる点が見つかっても、僕がその場でお客さんと交渉することはない。
会社員なので、まず社内の担当に上げる。
NDAの確認ポイントや契約不適合責任と同じく、読んで気づいて社内へ渡すところまでが僕の役割だと思っている。
出典
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