準委任と請負の違い|民法632条は「完成」、656条は「事務の処理」。受託開発の見積もりの前に条文で確かめる
準委任と請負の違いは、完成を約束するか、事務をきちんと処理する約束か。
民法の条文で、報酬の時期・義務・解除の違いを並べました。
準委任と請負のいちばんの違いは、「仕事を完成させる約束」か、「事務をきちんと処理する約束」か、だ。
民法632条の請負は、仕事の完成と、その結果への報酬を約束する契約。
民法656条の準委任は、委任の決まりを「法律行為でない事務」に当てはめる契約で、受ける側は善良な管理者の注意をもって処理する義務を負う。
完成までは約束していない。
受託開発の契約書には、このどちらかが書いてある。
どちらかで、報酬をもらえる時期も、納品後に直す義務の重さも変わる。
この記事は、e-Gov法令検索で民法の条文を読み直して整理したものだ。
条文の読み方は僕の理解で、法律の専門家の見解ではない。
実際の契約は、会社の法務や弁護士に確かめてほしい。
請負は「完成」を約束する
民法632条は、請負をこう書いている。
当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する。
報酬の時期は633条にある。
仕事の目的物の引渡しと同時に支払う、という決まりだ。
つまり、作り終えて渡すまでは、原則として報酬を請求できない。
受託開発に当てはめると、「この仕様のシステムを作って納める」という契約になる。
納めたものが契約の内容に合っていなければ、直す義務が出てくる。
この話は契約不適合責任の記事に書いた。
準委任は「ちゃんとやる」を約束する
委任は民法643条で、法律行為をすることを相手に委託し、相手が承諾することで成り立つ。
656条は、この節の規定を、法律行為でない事務の委託に準用すると書いている。
システムの開発や保守の作業は法律行為ではないので、こちらの「準委任」になる。
受ける側の義務は644条にある。
委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
いわゆる善管注意義務で、その道の仕事をする人として当然払うべき注意を払って、作業をすることだ。
完成させる義務は、条文のどこにも出てこない。
報酬は648条にある。
特約がなければ、報酬は請求できない。
報酬を受ける場合でも、原則は委任事務を履行した後に請求する。
期間で報酬を決めたときは、その期間が過ぎた後に請求できる。
途中で終わったときは、すでにした履行の割合に応じて請求できる、とも書いてある。
成果に払う準委任もある
ややこしいのが648条の2だ。
委任事務の履行で得られる成果に対して報酬を払う、と約束した場合の決まりで、その成果に引渡しが要るなら、報酬は成果の引渡しと同時に払う。
ネットの解説では、これを「成果完成型」と呼び、作業した時間や割合で払う形を「履行割合型」と呼ぶことが多い。
成果に払う形でも、準委任であることは変わらない。
受ける側が負うのは、あくまで善管注意義務だと僕は理解している。
「成果に払う」と「完成を約束する」は、似ているけれど別の話だ。
違いを並べるとこうなる
- 約束すること:請負=仕事の完成(632条)/準委任=事務の処理(656条・643条)
- 受ける側の義務:請負=完成させる/準委任=善良な管理者の注意をもって処理する(644条)
- 報酬の時期:請負=目的物の引渡しと同時(633条)/準委任=履行の後、期間で決めたなら期間の後(648条)、成果に払う形なら成果の引渡しと同時(648条の2)
- 途中でやめる:準委任は、各当事者がいつでも解除できる(651条)。ただし相手に不利な時期の解除などは、損害を賠償する
名前より、中身で見られる
もうひとつ、受託開発で気をつけたいことがある。
契約の名前が請負でも、発注した会社の人が、こちらの作業者に直接あれこれ指示を出していると、労働者派遣と見られることがある。
いわゆる偽装請負だ。
厚生労働省の労働者派遣事業関係業務取扱要領は、派遣と請負の違いを、他人の指揮命令を受けて、その他人のために働かせるかどうか、で分けている。
請負と判断されるには、作業の進め方の指揮監督を、雇っている会社が自分ですべて行い、業務を自分の業務として相手から独立して処理することが要る、とある。
細かい基準は昭和61年労働省告示第37号にまとめられている。
準委任の場合も、同じように考えておくのが安全だと僕は思う。
作業の指示は、こちらの会社の責任者を通す。
お客さんの席に座って働く形なら、なおさらだ。
見積もりの前に、僕が確かめたいこと
ここからは僕の考えだ。
受託開発の見積もりを出す前に、契約がどちらの形になるかを先に確かめておきたい。
- 仕様が固まっているか。固まっていないなら、請負で「完成」を約束するのは重い
- 報酬はいつ、何に対して払われるか。引渡しなのか、月ごとの作業なのか、成果物なのか
- 納品後に直す範囲と期間。請負なら契約不適合責任の話になる
- 途中で止まったら、どこまでの分を払ってもらえるか
- 作業の指示は誰から誰に出るか
見積もりで数え忘れやすいものはこちらの記事に、保守の対応範囲の決め方はこちらに書いた。
契約の形が決まると、この二つの話もずいぶん決めやすくなる。
まとめ
- 請負は仕事の完成を約束し、報酬は原則として目的物の引渡しと同時(民法632条・633条)
- 準委任は法律行為でない事務の委託で、受ける側は善管注意義務を負う。完成は約束しない(656条・644条)
- 準委任の報酬は、原則は履行の後。成果に払う約束なら、成果の引渡しと同時(648条・648条の2)
- 準委任は各当事者がいつでも解除できるが、相手に不利な時期の解除などは損害の賠償が要る(651条)
- 契約の名前が何でも、発注元が作業者に直接指示すると、派遣と見られることがある
出典
- 民法|e-Gov法令検索(第632条・第633条・第643条・第644条・第648条・第648条の2・第651条・第656条。2026年10月29日に確認)
- 労働者派遣事業関係業務取扱要領 第1 労働者派遣事業の意義等|厚生労働省(PDF)(労働者派遣と請負の区分・昭和61年労働省告示第37号の概要)
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