成長戦略を打つほど、物価が下がっていった

教育も研究も規制改革も移民も、全部を目一杯にしたプリセットを押した。
GDPは伸びた。物価はマイナス4%になった。

日本経済シミュレーターをつくる第3回 / 全9回目次

プリセットというのは、関係するスライダーをまとめて動かすボタンのことだ。
積極財政、財政再建、消費税ゼロ、高福祉・高負担。
その中に「成長戦略」を作った。

教育・科学技術への支出を対GDP比1.2%から2.4%へ。
規制改革とDXで生産性を年0.7%押し上げる。
働きやすさを5ポイント、高齢者の就業を10ポイント上げて、移民を年15万人から45万人へ。
法人税は29.7%から25%に下げる。

押してみた。
2050年の実質GDPは708兆円から1167兆円になった。6割増だ。
そして物価は−4%だった。

供給だけ増やせば物価は下がる。それはそう

作れる量が増えて、買う量が増えなければ、値段は下がる。
そこまでは筋が通っている。

ただ、24年かけて−4%まで行くというのは行き過ぎだと思った。
需給ギャップを見ると−9%まで開いていた。
実力が年2.4%で伸びているのに、実際の経済は1.3%でしか伸びていない。
その差が毎年積み上がって、9%の穴になっていた。

需要の中身を1つずつ印刷して、どこが置いていかれているのかを探した。

政府消費だった。
2026年度の147兆円が、2050年度に168兆円。24年で14%しか増えていない。
同じ期間にGDPは6割増えている。
政府の存在感が、GDP比で21.4%から16.4%まで縮んでいた。

バグは式ではなく、レバーの意味にあった

私は政府支出のスライダーを「実質で毎年何%増やすか」として作っていた。
現状の値は0.6%。実績に合わせた数字だ。

経済が年0.5%しか伸びない世界なら、これで政府の大きさは変わらない。
でも経済が年2%伸びる世界で政府だけ0.6%だと、政府は毎年1.4%ずつ相対的に小さくなっていく。
24年でGDPの5%ぶんの需要が抜ける。それが9%の穴の半分だった。

スライダーの定義を変えた。

政府支出の伸び = 潜在成長率 × 0.8 + レバーの値

「経済の実力にどれだけ上乗せするか」を決めるレバーにして、現在値は+0.2%にした。
潜在成長率が0.5%の今なら0.4+0.2で0.6%。実績と変わらない。
経済が2%伸びる世界なら1.8%になる。

これで穴はだいぶ埋まった。
成長戦略のプリセットにも政府支出と公共投資を少し足して、いまは物価−1.0%まで戻っている。

それでもマイナスなのは、そういうものだと思う

完全にゼロにはしなかった。
供給側だけを全力で伸ばして、日銀の金利がすでに下限近くにあると、物価は下向きに押される。
これはモデルの都合ではなく、実際にありうる話だからだ。

成長戦略には需要側の手当てが要る。
そのことが数字で出てくるなら、それは残しておいたほうがいい。

「毎年◯%」という言い方は自然に見える。
でもそれは、世界が今と同じ速さで動いていることを暗黙の前提にしている。
前提が変わるレバーを作るなら、レバーの単位そのものを疑ったほうがいい。
そう学んだ回だった。

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