モデルが、自分でデフレを増幅しはじめた
GDPの計算を直したら、今度は物価が下がり続けて止まらなくなった。
式は1本ずつ見れば、どれも教科書どおりだった。
日本経済シミュレーターをつくる第2回 / 全9回目次
輸出を足し忘れていたのを直して、もう一度25年を回した。
今度はGDPの水準はまともになった。
そのかわり、2040年代の物価が−4%に張り付いていた。
−4%というのは、私が念のため入れておいた下限の値だ。
つまりモデルはそこにぶつかって止まっているだけで、放っておけばもっと下へ行こうとしていた。
ついでに為替は1ドル60円、日経平均は3,000円になっていた。
そういう日本を私は見たくない。
ループが1周していた
年ごとの数字を追いかけていくと、こういう順番で回っていた。
- 需要が少し足りず、物価が下がる
- 日本の物価だけ下がるので、購買力平価の理屈で円が高くなる
- 円高になったので輸出が減る
- 輸出が減ったぶん需要がもっと足りなくなる
- 1へ戻る
一度でも需要不足が出ると、あとは勝手に回り続ける。
止める力がどこにも無かった。
輸出が反応すべきなのは、名目の為替ではなかった
3番目がおかしい。
日本の物価が年2%下がって、そのぶん円が2%高くなったとする。
このとき、アメリカの人から見た日本製品の値段は変わっていない。
円建ての値段が2%下がって、円が2%高くなったのだから、ドル建てでは行って来いだ。
輸出の数量が反応するのは実質為替のほうで、名目の為替ではない。
実質の変化 = 名目の変化 −(自国のインフレ率 − 相手国のインフレ率)この1行を入れたら、ループの3番目が切れた。
デフレが輸出を殺し続けることはなくなった。
もう一つ、物価が素直に下がりすぎていた
それでもまだ、物価はマイナス圏まで落ちた。
原因はフィリップス曲線を上下対称に書いていたことだった。
需給ギャップが1%プラスなら物価は0.4%上がる。
では1%マイナスなら0.4%下がるのか。
そうはならない、というのが現実の観察だと思う。
値上げは踏み切れば済むが、値下げには抵抗がある。
賃金はもっと極端で、名目の賃下げというのは日本ではめったに起きない。
不況になると企業は賃金を下げるのではなく、採用を絞ったり残業を減らしたりする。
そこで需要不足のときだけ傾きを0.45倍にして、名目賃金は0.5%を下回ろうとすると抵抗が働くようにした。
失業が深刻になるほどその抵抗は弱まる。
このあたりは経済学では下方硬直性と呼ばれていて、教科書にも出てくる話だ。
入れていなかった私が悪い。
1本ずつは、全部正しかった
この件でこたえたのは、間違っている式が1本も無かったことだ。
購買力平価は正しい。フィリップス曲線も正しい。輸出が為替に反応するのも正しい。
どれを取り出して見ても、教科書に書いてあるとおりに書いてある。
それでも、つないだ瞬間に世界が壊れた。
連立方程式というのはそういうもので、正しい式の集まりが正しい答えを出すとは限らない。
だから完成の条件を「式が正しいこと」ではなく「極端なシナリオを含む全部の経路を20年以上眺めて、まともであること」に置き直した。
いま10個あるプリセットは、その検査のために増えていったようなものでもある。
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