スズメバチが秋に凶暴になる理由|九月のキャンプ場で、黒い帽子をやめた
スズメバチの巣がいちばん大きくなるのは九月だった。
黒に強く反応すると知って、五年かぶった帽子を替えた。
九月に入ってから、キャンプ場でハチを見る回数が増えた気がしていた。
気のせいだと思っていた。
涼しくなったぶん、こっちが外に出ている時間が長いだけだろうと。
調べたら、気のせいではなかった。
ハチにとって九月は、一年でいちばん巣が大きくて、いちばん気が立っている時期だった。
巣がいちばん大きくなるのが、九月
福島県が出している刺傷防止のページに、こう書いてある。
アシナガバチの仲間が活発なのは、おおむね7月から8月。
スズメバチの仲間は、おおむね7月から11月。
そしてスズメバチ類は9月頃に巣の規模が最大になり、攻撃性が高まる。
理由は二つあるらしい。
ひとつは、この時期に来年の女王と雄が育つこと。
巣の中にいちばん大事なものが入っているので、守りが厚くなる。
もうひとつは、餌になる昆虫が秋に減ること。
探しにいく範囲が広がって、人のいるところまで出てくる。
夏のあいだ気にせずに済んでいたのは、単に巣が小さかったからだった。
いちばん危ないのは真夏だと勝手に思っていたけれど、ピークは僕がキャンプに行きたくなる季節と重なっていた。
黒い帽子をやめた
同じページに、服装のことが書いてある。
「黒色」に対して攻撃性が強いので、黒い服は避け、帽子をかぶるなどして頭髪を隠す。
「白色」や「銀色」に対して攻撃性は弱い。
これを読んで、自分の帽子を見た。
黒いキャップだった。
しかも五年くらいずっとそれで、理由は「汚れが目立たないから」。
焚き火の煤も、雨のはねも、黒なら気にならない。
こちらの都合しか考えていなかった。
頭髪を隠す、という一文もひっかかった。
黒いものに来るなら、髪はそのまま黒い塊だ。
キャップだとつばの反対側、首の後ろが出る。
いまは生成りの、つばが一周ついたハットに替えた。
被り心地はキャップのほうが好きだけれど、九月と十月はこっちにしている。
においも、見られている
色の次に書いてあるのが、においの話だった。
ヘアスプレー、ヘアトニック、香水の類はなるべくつけない。
体臭や汗のにおいにも反応する。
服の色で蚊に刺される回数が変わっていた、という話を前に書いたことがある(服の色で、蚊に刺される回数が変わっていた)。
あのときと構造が同じだと思った。
相手が何を手がかりにしているかが分かると、こちらの支度のほうが決まる。
甘い飲み物を開けたまま置かない、というのも同じ話だ。
缶の中に入り込んだハチに、飲もうとして口の中を刺されるのがいちばん怖い。
僕は蓋の閉まる容器に移し替えるようにした。
近づかれたときに、いちばんやってはいけないこと
これも書いてある。
ハチが近づいてきても急な動きはしない。手ではらったりすると逆に攻撃してくる。
去年、顔の前を横切ったハチを、僕は反射で払った。
刺されなかったのは、たぶん運がよかっただけだ。
正しいのは、静かに後ずさって離れること。
頭の高さで羽音がしたときにじっとしていられるかどうかは、知識ではなく練習に近い気がする。
それでも、知らないよりは知っているほうがいい。
設営の前に、十分だけ周りを歩くのも今年から始めた。
見るのは、屋根のある構造物の軒下、木の洞、地面の穴。
そこにハチが出入りしていたら、その区画は使わない。
刺されたあとにやること、やってはいけないこと
ここがいちばん大事なところなので、そのまま書く。
毒袋をつぶさないように取り除く。
刺された部位を冷水で冷やす。
ハチ刺され用の薬を塗る。
アンモニア水や尿は効果がない。
おしっこをかければいい、というのを僕はどこかで聞いて信じていた。
効かないと明記されている。
そして、いちばん重い話。
二回目以降に刺されたときは、アナフィラキシーショックで短時間のうちに重い症状に至ることがあると書かれている。
一度目が平気だったから二度目も平気、ではない。
むしろ逆で、一度刺されたことがある人ほど気をつける必要がある。
ここは自分で判断せず、体調がおかしいと思ったらすぐ病院へ、という一線だけは崩さないことにした。
去年の夏、蚊取り線香を焚いていたのに刺された話を書いたときも(蚊取り線香を焚いていたのに刺された。相手は蚊ではなかった)、結局は相手を間違えていたのが原因だった。
ハチは、間違えたときの代償がほかの虫と桁で違う。
車に積むようになったもの
道具でどうにかなる話ではないと分かったうえで、それでも積むようになったものが三つある。
ひとつは、遠くまで届くタイプのハチ用スプレー。
巣を退治するために使うのではなくて、離れられない場面が来たときの最後の手段として置いている。
巣が大きい時期に自分で駆除しようとするのは、素人がやることではないと思う。
ふたつめは、ポイズンリムーバー。
刺された直後に毒を吸い出すための道具で、千円しない。
これがあれば大丈夫、という道具ではないので、使ったうえで病院に行く。
みっつめが、色の薄い帽子。
上に書いた、黒をやめた話がこれ。
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今年の九月、やめたことと始めたこと
やめたのは三つ。
黒い帽子。
甘い飲み物を開けたまま置くこと。
目の前に来たハチを手で払うこと。
始めたのも三つ。
着いたら設営の前に周りを十分歩く。
色の薄い帽子をかぶる。
ポイズンリムーバーを、救急箱ではなく運転席の手が届くところに置く。
夏に、虫は追い出すより入れないほうが早い、と書いた(虫は追い出すより「入れない」ほうが早かった)。
あれはテントの中の話だった。
秋のハチは、入れないよりもっと手前で、近づかない。
こっちが場所を選び直すところから始まる相手だった。
出典
※ 内容は2026年9月6日時点で各ページを確認したものです。刺されたあとの症状は個人差が大きいので、迷ったら医療機関へ。