蚊取り線香を焚いていたのに刺された。相手は蚊ではなかった

刺された当日は赤い点が三つあるだけで、腫れてきたのは翌日だった。
蚊とは腫れ方の時間が違う。虫よけの裏を読んだら、効能に蚊しか書いていなかった。

八月の川沿いのキャンプ場で、夕方に設営していた。

蚊取り線香は焚いていたし、虫よけスプレーも腕と足に吹いていた。
それでも足首を三か所やられた。

刺されたときは、たいして気にしていなかった。
赤い点が三つ並んでいるだけで、痒くもなかった。

おかしくなったのは翌日だ。
朝起きたら足首が腫れていて、靴下のゴムが食い込むくらいになっていた。
痒みも遅れて出てきて、それが一週間近く続いた。

あとで調べて分かったのは、相手が蚊ではなかったということだった。

蚊とは、腫れ方の時間が違う

蚊に刺されると、たいていその場で痒くなる。
膨らんで、掻いて、翌日には引いている。

ブユ、地方によってブヨとかブトと呼ばれる小さな虫は、そうならない。

刺されている最中はほとんど気づかない。
当日は小さい赤い点があるだけで、症状が強く出るのは翌日以降。
腫れが大きく、痒みが長い。人によっては一週間から二週間残る。

やられ方も違っていて、蚊は針を刺して吸うが、ブユは皮膚を噛み切って出てきた血を吸う。
だから中心に点状の出血の跡が残ることがある。
僕の足首に並んでいた三つの赤い点が、それだった。

アブはもっと分かりやすい。
体が大きく、刺された瞬間にはっきり痛い。気づかないということがまずない。
こちらは晴れた日の日中、川沿いや牧草地のあたりで寄ってくる。

出る時間と場所が、はっきり決まっている

ブユの幼虫は、流れのあるきれいな水の中で育つ。

つまり、渓流沿い、沢の近く、川沿いのサイトに集中する。
水がきれいなところほど多い、というのが厄介なところだ。
景色のいい場所を選ぶと、そのままブユのいる場所を選んでいることになる。

時間帯は朝と夕方。
僕が刺されたのは、まさに夕方の設営中だった。

やられるのは足首、袖口、首。
服のすきまと、いちばん薄いところ。
上半身にスプレーを吹いて、靴下から出た足首を忘れていた。あそこが一番低くて、一番虫のいる高さだった。

虫よけの成分は二つあって、効く相手が書いてある

ここが今回いちばん反省したところだった。

虫よけの有効成分は、日本ではおもに二つある。
ディートと、イカリジンだ。

ディートは古くからあるほうで、蚊のほかにブユ、アブ、マダニ、ノミ、トコジラミなど、幅広い相手に対して忌避の効果が認められている。
日本では濃度30%が上限で、30%のものは12歳未満には使えない。
12%以下のものにも年齢ごとの制限があって、6か月未満の乳児には使えず、そこから2歳未満は1日1回まで、12歳未満は1日1回から3回までとされている。

イカリジンはあとから承認されたほうで、効能として認められている相手は蚊の成虫、ブユ、アブ、マダニの四つ。
こちらは年齢や回数の制限がない。
国内で使える濃度の上限は15%になっている。

それから、これを知らなかったのが大きかった。
濃度は「強さ」ではなく「持続時間」の目安だ。
ディートなら30%でおよそ6時間、15%で5時間、10%で3時間といった見当になる。
濃いものを塗れば効きが強くなるのではなく、効いている時間が延びる。

僕がそのとき使っていたのは、家に転がっていた安い虫よけだった。
帰ってから裏を読んだら、効能に書いてあるのは「蚊」だけで、ブユもアブも入っていなかった。
効かないものを丁寧に吹いて、効いていると思い込んでいた。

選ぶときに見るのは二か所だけでいい。
ひとつ、有効成分と濃度。ひとつ、効能に書かれている虫の名前。
「アウトドア用」「強力」といった売り文句のほうは、どちらも参考にならない。

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刺されたあとは、素人判断をやめた

いちばん反省したのは、刺されてからのほうだ。

翌日腫れてきたとき、家にあった痒み止めを塗って様子を見た。
引かなかった。三日目にもっと腫れた。

ブユやアブにやられたときの腫れは、市販の弱い薬では収まらないことがあるらしい。
結局、皮膚科に行って薬を出してもらって、そこから引きはじめた。
最初から行っていれば、痒い夜が三つ減っていた。

掻かないこと、というのは分かっていても難しい。
寝ているあいだに掻いてしまうので、腫れが強い日は上から薄いテーピングを貼って寝た。これは効いた。

ポイズンリムーバーも救急袋に入れているが、あれは刺された直後に使うものだ。
時間が経ってから当てても意味は薄い。
僕のように翌日になってから慌てる人間には、正直あまり出番がない。
それでも持っていくのは、蜂に刺されたときのためだ。用途が違う。

※ 腫れや痛みが強いとき、広がるとき、体調に変化があるときは、自己判断せず医療機関で診てもらってください。ここに書いたのは僕個人の経験です。

いちばん効いたのは、時間をずらすことだった

次の月、同じ川沿いのキャンプ場に行った。

やったことは三つ。

ひとつ、着く時間を昼に変えた。
夕方に設営しない。これがいちばん効いた。虫よけを塗るより確実だった。

ふたつ、足首を隠した。
短い靴下をやめて、ズボンの裾を靴下の中に入れる。
見た目は悪いが、薄い布の上からでもやられるので、隠すだけでなく厚さのあるものにした。

みっつ、日が落ちる前に焚き火を起こした。
煙のあるところは虫が寄りにくい。
煙がこちらに来るのは別のところで困っているのだが、この日ばかりはありがたかった。

虫の話は、呼び寄せているのはゴミだった話と、服の色で刺される回数が変わる話を前に書いた。
あれも今回も、結局は同じところに行き着いた。

効く薬を探すより先に、相手が誰で、いつ来るのかを知るほうが早い。
僕は三年ほど、蚊だと思って蚊の対策をしていた。
相手が違えば、対策も全部ずれる。

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