軽減税率は、税収と物価で「重み」が違った
軽減税率も動かせるようにしてほしい、と言われた。
2時間で終わる仕事だと思っていた。
日本経済シミュレーターをつくる第5回 / 全9回目次
消費税のスライダーは最初から付けていた。
0%から30%まで動かせて、上げると税収が増えて物価が上がって消費が冷える。
そこに「軽減税率も別に動かしたい」という要望が来た。
酒類と外食を除く飲食料品、それに週2回以上出る定期購読の新聞にかかっている、あの8%のことだ。
スライダーを1本増やして、課税ベースを2つに割って、それぞれの税率を掛ける。
そういう仕事だと思っていた。
まず、いくらぶんが軽減税率なのかを決める必要があった
軽減税率の対象になる消費額は、年55兆円から60兆円と見られている。
このモデルの消費税の課税ベースはおよそ347兆円なので、割合にして16.5%だ。
検算もできる。
軽減税率を廃止して10%に一本化すると、347兆円の16.5%に2%ポイントが乗るので、増収は1.15兆円になる。
軽減税率の導入時に示されていた減収見込みが1兆円程度だったので、桁は合っている。
ここまでは順調だった。
物価の効きが、明らかに小さすぎた
16.5%という割合を、そのまま物価のほうにも使った。
軽減税率を8%から1%へ下げてみると、消費者物価は0.8%しか下がらなかった。
各種の試算では1%程度の押し下げと言われている。
桁は合っているが、少し足りない。
しばらく考えて、分母が違うことに気づいた。
消費税の課税ベースには、家計の消費だけでなく政府の消費や住宅投資も入っている。
ところが消費者物価指数のバスケットには、政府消費も住宅投資も入らない。
家計が買うものだけで作られている。
そちらの重みを数えると、食料が26.3%、うち外食が5.0%、新聞が0.2%。
差し引き21.5%になる。
16.5%と21.5%。
同じ「軽減税率対象の割合」でも、分母が違えば別の数字だった。
重みを2つに分けた
税収に効く重み … 課税ベースの16.5%
物価に効く重み … CPIバスケットの21.5%分けて計算し直すと、8%から1%への引き下げで税収が年4.3兆円減り、物価は1.04%下がった。
これで各種の試算とほぼ揃った。
この非対称は、そのまま政策の性質でもある。
軽減税率をいじると、税収に対して物価によく効く。
同じ1%ポイントでも、標準税率とは効き方が違うということだ。
生活必需品にかかる税なので、所得の低い世帯ほど恩恵が大きいという性質もある。
そちらはこのモデルでは扱えていない。平均的な給与所得者ひとりしか居ないからだ。
調べている途中で、制度のほうが動いていた
軽減税率の現行制度を確認していて、8月5日の臨時閣議のことを知った。
飲食料品の消費税率を2027年4月1日から2年間、8%から1%へ引き下げる。
「給付付き税額控除の制度導入の基本方針」の中に、その方針が入っていた。
関連法案はまだ成立していない。
作っている最中の道具で、これから起きるかもしれないことがそのまま試せる。
そういうことが起きるとは思っていなかった。
「食料品1%減税」というプリセットを足した。
このシミュレーターは2026年度を実績で固定して、政策の効果は2027年度から出る作りになっている。
施行の時期とちょうど重なった。
押すと、実質の手取りは増える。
2050年の借金は対GDP比で253%から271%に増える。
そういう答えが出る。
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