おにぎりが傷む原因と対策|寿司屋で最初に仕込まれたのは、塩加減より手の温度だった
前の晩に握ったおにぎりが、翌日には酸っぱい匂いになっていた。
塩加減のせいだと思っていたら、寿司屋で最初に仕込まれたのは手の温度の話だった。
前の晩に握っておいたおにぎりを、翌日の昼に開けたら、いつもよりべたっとして酸っぱいような匂いがした。
手を洗ってから握ったし、塩も普段どおりにした。
それでも駄目だったので、しばらく塩加減か具のせいだと思い込んでいた。
板場にいた頃、シャリを触る前に必ずやっていたことがある。
手酢を打つ前に、まず氷水で手を冷やしていた。
あれは衛生のためだと聞かされていたが、意味を分かっていたのは後になってからだった。
傷みの正体は、素手そのものより温度と時間だった
おにぎりが傷む原因でいちばん多いのは、黄色ブドウ球菌という菌だと東京都保健医療局の資料に書いてある。
この菌は特別な場所にいるわけではない。
「健康な人でものどや鼻の中などに高率で検出され、動物の皮膚、腸管、ホコリの中など身近にも存在」しているという。
つまり手を洗っていても、洗い残しがゼロになるとは限らない菌だった。
厄介なのはここからで、この菌が増えるときに出す毒素は「100℃20分の加熱でも分解されません」とある。
おにぎりは焼くわけではないので加熱でどうにかなる話ではもとよりないが、仮に火を通しても消えないというのは知っておいたほうがいい。
発症までの時間は「潜伏時間は30分〜6時間(平均約3時間)」、症状は「はき気、おう吐、腹痛が主症状」で「下痢をともなうこともあり、一般に高い熱はでません」とある。
原因になりやすい食品として、資料には「にぎりめし、寿司、肉、卵、乳などの調理加工品及び菓子類など多岐にわたっています」と、おにぎりの名前がそのまま挙がっている。
手を洗ったから大丈夫、塩を利かせたから大丈夫、というのは半分だけ正しい。
菌がゼロにならない前提で、増やさない工夫のほうを積み重ねる必要があった。
寿司屋で最初に仕込まれたのは、塩加減より手の温度だった
シャリを握る仕事に入ってすぐ、まず言われたのは手の温度の話だった。
握る前に手を氷水にくぐらせる。
酢飯は人肌に近づくほど傷みやすく、握る手が温かいとそこから体温を渡してしまう。
塩加減の指導が来るのは、その後だった。
もうひとつ言われたのは、握る時間を延ばさないこと。
迷いながらゆっくり握るのではなく、形を決めてから一気に握って離す。
手に乗っている時間そのものが、温度を渡している時間だった。
家でおにぎりを握るときも、この二つはそのまま使える。
ご飯を炊きたてのまま握らず、人肌より下まで冷ましてから握る。
手を水で濡らすなら、できれば冷たい水にする。
そして手早く握って、握り終わったらすぐ広げて冷ます。
握ったあと重ねて置くと、下のほうがいつまでも冷めない。
ラップを使う場合も同じで、素手で直接触れないというより、体温を長く当てないことのほうが効いていると僕は思っている。
具材は、水分の少ないものから選ぶ
板場では、握り寿司のネタに生ものを使うぶん、温度と時間の管理はどこよりも厳しく言われた。
その感覚をそのままおにぎりの具に当てはめると、選び方は単純になる。
持ちがいいのは、塩分が高くて水分が少ないもの。
梅干し、焼き鮭、塩昆布、おかか(しっかり醤油を効かせたもの)あたりは、キャンプの朝でも安心して握れる。
逆に持たないのは、水分やたんぱく質が多くて傷みやすいもの。
ツナマヨ、半熟気味の卵、生野菜を挟んだもの、炊き込みご飯や混ぜご飯は、具そのものが傷みやすいうえに全体の水分量も上がるので、夏場は避けている。
海苔は現地で巻く。
先に巻いてしまうと、ご飯の水分が海苔側に移って、そこから傷みが進みやすくなる。
酢を利かせると傷みにくいとは聞くが、過信はしない
ご飯に酢を少し混ぜると傷みにくくなる、というのはよく言われる話で、寿司飯が常温でも比較的長くもつのと同じ理屈だろうと思う。
ただ、これは「酢を入れれば安全になる」という意味ではない。
酢飯も無条件に長時間もつわけではなく、寿司屋でも常温で置きっぱなしにすることはない。
酢は傷みにくさを底上げする一つの手段であって、温度と時間の管理を省略していい理由にはならないと思っている。
味の面でも、酸っぱい塩むすびは好みが分かれる。
僕は米3合に対して大さじ1杯程度、味に響かない範囲でしか入れない。
現地では、握った時間からの経過で判断する
キャンプでおにぎりを持っていくなら、握るのは出発の朝が一番いい。
前の晩に握って一晩置くのは、今回の失敗そのものだった。
持ち歩く間は保冷剤と一緒にクーラーボックスへ入れ、車の中に出しっぱなしにしない。
直射日光の当たる場所に置くのがいちばんまずいのは、刺身が余った夜に書いたのと同じ理由で、温度が上がった時間はあとから取り戻せない。
資料にある「食品は10℃以下で保存し、菌が増えるのを防ぐこと」という目安を、そのままおにぎりにも当てはめている。
保冷剤なしの常温だと、夏場は2〜3時間で食べ切るつもりでいたほうがいい。
米そのものの浸水の話もそうだったが、下ごしらえは現地で頑張るより、家にいる段階で条件を整えておくほうが結局は楽だった。
食べる直前に見て、糸を引いていたり酸っぱい匂いがしたら、その一個はそこで諦める。
もったいないと思って食べるものではない。
出典
※本文中の数値は2026年9月10日時点で上記資料を確認したものです。体調に異変があったときは自己判断せず医療機関へご相談ください。