単価交渉の切り出し方|既存のお客さんに値上げをお願いするときの順番
見積書に、前の年と同じ数字を書こうとして手が止まる。
上がっていないのは、お客さんに出している数字だけ、ということは珍しくない。
見積書を作っていて、前の年に出したものをひらき、数字だけ入れ替えて出そうとすることがある。
中身はほとんど同じだから、それでよさそうに見える。
ただ、その年は外注に払う額も、使っているツールの利用料も上がっているかもしれない。
作業の量も、契約したときより増えているかもしれない。
上がっていないのは、お客さんに出している数字だけ、ということは珍しくない。
既存のお客さんに値上げをお願いするのは、新規の見積もりよりずっと言い出しにくい。
ここでは、その切り出し方を順番に整理する。
言い出せないのは、金額の話を自分の仕事だと思っていないから
会社勤めの開発者だと、値段を決めるのは自分ひとりではない。
そのことに甘えてしまうところがある。
金額は営業や上の人が見るもので、自分がやるのは中身のほうだと、頭のどこかで線を引いてしまう。
線を引いているうちは切り出せない。
見積もりを作っているのは自分なのに、その数字の意味を考える係が誰なのか曖昧なままだからだ。
仕入れの値段が毎日動く仕事では、値段の話が仕事の話と地続きになる。
高い日は高いと言うし、そのぶん出す形を変える。
値段が動くのが前提で、動いたら口に出すのが当たり前だ。
受託の見積もりは、一度出すと動かない前提になりやすい。
そこに無理があると思う。
数字ではなく、増えた量を数えて出す
最初に用意するのは、新しい単価ではない。
この一年で何が増えたかを数えた紙だ。
保守で受けている案件なら、問い合わせの件数と、そのうち契約に書いていない作業がどれだけあったか。
月に何回さわって、何時間かかっているか。
契約したときには存在しなかった機能が、いまいくつぶら下がっているか。
この紙は、まず社内に出す。
お客さんの前に立つ前に、社内が通らないと話にならない。
ここで押さえたいのは、社内を説得するのに要る材料と、お客さんに納得してもらうのに要る材料が、ほぼ同じだということだ。
別々に用意するものだと思い込みがちだが、そうではない。
紙が一枚あると、話が「上げてほしい」から「増えている、どうしましょう」に変わる。
上げてほしいは出す側の都合だが、増えているのは事実で、事実なら相手も一緒に見られる。
数えるところは前にも書いた。
見積もりで工数を数え忘れる話は三日で終わるはずの仕事が二週間かかる。見積もりで数え忘れやすいものに書いてある。
数え忘れていたものを、今度は値上げの材料として数える。
やることは同じだと思う。
切り出すのは、仕事の終わりではなく始まり
タイミングはどこにするか、迷うところだ。
納品したあとがいいと考えがちだ。
良い仕事をしたあとなら言いやすい気がするからだ。
ただ、これはあまりよくないと思う。
終わったあとに金額の話を持ち出すと、済んだ仕事の請求を後から吊り上げているように受け取られる余地が残る。
こちらにその気がなくても、順番がそう見せてしまう。
切り出すなら、次の期間の話が始まるときがいい。
契約を更新する前、あるいは新しい範囲の相談が来たとき。
これから先の話をしている場だから、これから先の金額の話が自然に混ざる。
言い方は「来期からの見積もりを作り直したいので、いまの実態を先に見てもらえますか」のようにする。
値上げという言葉を先に出さずに、紙を先に見てもらう。
断られたときにどうするかを、先に決めておく
断られる可能性は当然ある。
そのとき自分たちがどうするかを決めていないと、相手の返事を待つあいだ腹が据わらないし、据わっていないことは声に出る。
社内で先に決めておくのは三つだと思う。
金額が据え置きなら、契約に書いてある範囲だけをやる形に戻す。
範囲を減らす相談をする。
それも通らないなら、更新のタイミングで区切る。
三つ目まで話に出すのは怖い。
けれど決めておくと、一つ目と二つ目を落ち着いて話せる。
逃げ道を用意するというより、どこまでなら引き受けられるかを先に決める、という感じに近い。
引き受ける仕事の線を決める話は受託開発で断る仕事の基準は、三つあれば足りるにも書いた。
断る基準を持っていると、値上げの話も同じ道具で扱える。
上げてもらったあとは、報告の細かさで返す
金額が通ったあとにやっておきたいのは、前より細かく報告することだ。
月に何をやったかを短く書いて送る。
これは相手のためというより、自分のためになる。
上げてもらった額に見合っているかどうかを、自分で確かめたくなるからだ。
確かめる材料は、結局さっきの「数えた紙」と同じものになる。
値上げのために数え始めたものを、上げたあともそのまま数え続ける。
もう一つ、次の見積もりを作るのが早くなる。
前の年の数字を写すのをやめて、毎回いまの実態から積むからだ。
手間は増えるように見えて、迷う時間が消えるぶん早くなるはずだ。
言い出せない年が続いて失うのは、金額そのものより、自分がいくらぶん働いているかを知らないまま毎年更新していく時間のほうだと思う。
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