2026.09.15 泊まれる場所4,223 立ち寄りスポット46,522 営業中を確認したキャンプ場1,005 note を読む

単価交渉の切り出し方|十五年で二度だけ、既存のお客さんに値上げをお願いした

見積書に、前の年と同じ数字を書こうとして手が止まった。
上がっていないのは、うちがお客さんに出している数字だけだった。

見積書を作っていて、手が止まった。
前の年に出したものをひらいて、数字だけ入れ替えて出そうとしていた。
中身はほとんど同じだったから、それでよかった。

ただ、その年は外注に払う額も、使っているツールの利用料も上がっていた。
作業の量も、契約したときより増えていた。
上がっていないのは、うちがお客さんに出している数字だけだった。

十五年この仕事をしていて、担当している案件で既存のお客さんに値上げをお願いしたのは二度しかない。
少ないと思う。
言い出せなかった年のほうがずっと長かった。

言い出せなかったのは、金額の話を自分の仕事だと思っていなかったから

最初の六年くらい、僕は金額の話を自分から持ち出したことがなかった。

会社勤めなので、値段を決めるのは自分ひとりではない。
そのことに甘えていたところがある。
金額は営業や上の人が見るもので、自分がやるのは中身のほうだと、頭のどこかで線を引いていた。

線を引いているうちは切り出せない。
見積もりを作っているのは自分なのに、その数字の意味を考える係が誰なのか曖昧なままだからだ。

思い返すと、板場にいた頃はそこが逆だった。
仕入れの魚の値段は毎朝変わっていて、値段の話が仕事の話と地続きだった。
高い日は高いと言うし、そのぶん出す形を変える。
値段が動くのが前提で、動いたら口に出すのが当たり前だった。

いまの仕事に移ってから、その当たり前が消えていた。
見積もりを一度出すと、それが動かない前提になっていた。

数字ではなく、増えた量を数えて出した

二度とも、僕が最初に用意したのは新しい単価ではなかった。
この一年で何が増えたかを数えた紙だった。

保守で受けている案件なら、問い合わせの件数と、そのうち契約に書いていない作業がどれだけあったか。
月に何回さわって、何時間かかっているか。
契約したときには存在しなかった機能が、いまいくつぶら下がっているか。

この紙を、僕はまず社内に出した。
お客さんの前に立つ前に、社内が通らないと話にならない。

ここで気づいたことがある。
社内を説得するのに要る材料と、お客さんに納得してもらうのに要る材料が、同じだった。
別々に用意するものだと思い込んでいたが、そんなことはなかった。

紙が一枚あると、話が「上げてほしい」から「増えている、どうしましょう」に変わる。
上げてほしいは出す側の都合だが、増えているのは事実で、事実なら相手も一緒に見られる。

実際、一度目のときは相手のほうから「これはもう最初の契約と違いますね」と言われた。
こちらが言うより早かった。

数えるところは前にも書いた。
見積もりで工数を数え忘れて痛い目を見た話は三日あれば終わると言った仕事に、二週間かかったに書いてある。
あのとき数え忘れていたものを、今度は値上げの材料として数えている。
同じ作業だと気づいたのは、二度目のときだった。

切り出したのは、仕事の終わりではなく始まりだった

タイミングをどこにするかで、ずいぶん迷った。

最初は納品したあとがいいと思っていた。
良い仕事をしたあとなら言いやすい気がしたからだ。

やってみて分かったが、これはよくない。
終わったあとに金額の話を持ち出すと、済んだ仕事の請求を後から吊り上げているように受け取られる余地が残る。
こちらにその気がなくても、順番がそう見せてしまう。

二度とも実際に切り出したのは、次の期間の話が始まるときだった。
契約を更新する前、あるいは新しい範囲の相談が来たとき。
これから先の話をしている場だから、これから先の金額の話が自然に混ざる。

言い方は毎回ほとんど同じで、「来期からの見積もりを作り直したいので、いまの実態を先に見てもらえますか」だった。
値上げという言葉を先に出さずに、紙を先に見てもらう。

断られたときにどうするかを、先に決めておいた

これをやっていなかったら、たぶん一度目で言い出せていない。

断られる可能性は当然ある。
そのとき自分たちがどうするかを決めていないと、相手の返事を待つあいだ腹が据わらないし、据わっていないことは声に出る。

社内で先に決めておいたのは三つだった。
金額が据え置きなら、契約に書いてある範囲だけをやる形に戻す。
範囲を減らす相談をする。
それも通らないなら、更新のタイミングで区切る。

三つ目まで話に出すのは怖い。
けれど出しておくと、一つ目と二つ目を落ち着いて話せる。
逃げ道を用意したというより、どこまでなら引き受けられるかを先に決めた、という感じに近い。

引き受ける仕事の線を決める話は十五年やって、断る仕事の基準が三つに減ったにも書いた。
断る基準を持っていると、値上げの話も同じ道具で扱える。

上げたあとに変わったのは、相手ではなく僕のほうだった

二度とも通った。
一度目は希望どおりで、二度目は間を取った額になった。

正直に書くと、通ったこと自体より、そのあとの自分の変化のほうが大きかった。

金額を上げてもらった案件では、僕は前より細かく報告するようになった。
月に何をやったかを短く書いて送る。
頼まれてもいないのに始めたが、続いている。

これは相手のためというより、自分のためだった。
上げてもらった額に見合っているかどうかを、自分で確かめたくなる。
確かめる材料は、結局さっきの「数えた紙」と同じものだ。
値上げのために数え始めたものを、上げたあともそのまま数え続けている。

もう一つ変わったのは、次の見積もりを作るのが早くなったことだった。
前の年の数字を写すのをやめたので、毎回いまの実態から積む。
手間は増えたはずなのに、迷う時間が消えたぶん早い。

言い出せなかった六年で失っていたのは、金額そのものより、自分がいくらぶん働いているかを知らないまま毎年更新していた時間のほうだったと思う。

まる子パパ

まる子パパ

会社員。受託開発のエンジニアで、その前は寿司職人・長距離運転手・農業。 技術ブログは、キャンプの合間に踏んだバグと、AI・Web開発の運用の失敗を書いています。 このサイト自体が、開発に携わっているCMS「コンテナ」の稼働中の実例です。 このサイトについて

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