十五年やって、断る仕事の基準が三つに減った
引き受けるかどうかで迷っている時間が、いちばんもったいなかった。
自分のための線引きを、そろそろ言葉にしておく。
見積もりを作る前、いちばん時間を使っているのは何だろうと考えたことがある。
設計でも調査でもなくて、「これは受けるべきなのか」と一人で腕を組んでいる時間だった。
受託を始めた頃は、来た話をほとんど全部受けていた。
断る理由が自分の中になかったからだ。
十五年やってきて、いま見ているのは三つだけになった。
1. 決める人が誰なのか分からない
打ち合わせに五人いて、全員が「持ち帰って相談します」と言う。
この形の案件は、たいてい途中で止まる。
止まっているあいだもこちらの時間は動いているのに、請求できるのは作った分だけだ。
だから最初の打ち合わせで「最終的に決めるのはどなたですか」と聞くようにした。
その場で名前が出てこない話は、いったん引く。
意地悪で聞いているわけではない。
決める人がはっきりしていれば、相手のほうも迷わずに済む。
この質問に即答が返ってくる会社は、だいたい進行も速い。
2. 「とりあえず全部お願いします」と言われる
範囲が決まっていない仕事は、金額を決めようがない。
決めないまま走り出すと、どこかで必ず「そこまで含まれていると思っていました」が出てくる。
揉めるのはお金の話に見えて、実際は範囲の話だと思う。
いまは最初の見積もりを二段に分けている。
何を作るかを決めるところまでで一本。
実際に作るところで、もう一本。
前半だけで終わっても構いません、という形にしておくと、相手も「まず整理してもらおう」と言いやすいらしい。
この分け方にしてから、途中で険悪になることがほとんどなくなった。
前半の成果物は仕様書というより、決めたことの一覧に近い。
それでも、書いて渡すだけで話の速度がまるで変わる。
3. 値段だけで選ばれている
「相見積もりなので、いちばん安いところにお願いします」と最初に言われた案件は、受けないことにした。
安く出すこと自体が嫌なのではない。
困るのは、そのあと必ず来る「ここも直しておいてください」に、値段で選んだ相手ほど遠慮がないことだ。
値切られたぶんを、あとから時間で取り返される。
逆に、前に作ったものを見て連絡をくれた人とは、たいてい長く続く。
何を大事にしている相手なのかが、最初の一通で分かってしまう。
十五年ぶんの実感として、ここの見立てはあまり外れない。
断れるようになったのは、断らなくても回るようになったから
正直に書くと、この三つは十年目までは使えなかった。
来月の売上が見えていない状態で、目の前の話を断れるわけがない。
保守で毎月いくらか入るようになって、はじめて選べるようになった。
基準を持つより先に、基準を使える状態を作るほうが順番としては早いのだと思う。
だから「断り方」を先に覚えようとしている人には、まず続く仕事を一本作るほうを勧めている。
断った案件のことは、いまでもたまに思い出す。
あれは受けていたらどうなっていたんだろう、と考える夜がある。
それでも、迷っている時間が減ったぶんだけ、前より確実に手が動くようになった。