基準額が資料のどこにも書かれていなかったので、逆算することにした
令和8年8月の高額療養費制度改正。厚生労働省の資料には新しい月額上限の数字が並んでいた。
でも、区分アとイの「1%部分」の基準額だけが、どこにも見当たらなかった。
医療費・保険シミュレーターをつくる第1回 / 全1回目次
高額療養費制度には「1%部分」というものがある。
月の医療費が一定額を超えたら、そこから先は超えたぶんの1%を上乗せする、という仕組みだ。
式で書くとこうなる。
自己負担限度額 = 定額部分 + (総医療費 − 基準額) × 1%令和8年8月の制度改正で、この定額部分が引き上げられることは、ニュース記事にもたくさん出ていた。
区分ウ(年収約370万〜770万円)なら80,100円から85,800円へ。
区分ア(約1,160万円〜)なら252,600円から270,300円へ。
ここまでは何十本という解説記事が一致していた。
基準額だけが、記事によって数字が違う
ところが「基準額」(1%が乗り始める総医療費のライン)を探すと、様子がおかしくなった。
区分アの基準額を「900,000円」と書いている記事と「901,000円」と書いている記事が両方あった。
区分イも「558,000円」のままとする記事と「597,000円」に上がったとする記事に分かれていた。
唯一そろっていたのが区分ウで、どの記事も「267,000円→286,000円」と書いていた。
ここだけ検算もできる。85,800÷0.3を計算すると、ちょうど286,000になる。
厚生労働省の資料そのものを探しに行った
解説記事同士を見比べていても埒が明かないので、検索エンジンから離れて、厚生労働省のドメイン(mhlw.go.jp)のPDFを直接探した。
見つかったのは「(参考)高額療養費制度の見直しについて」という資料で、令和8年8月〜・令和9年8月〜の月額上限と年間上限が、区分ごとに表になっていた。
ただし、この公式資料にも「基準額」という数字そのものは載っていなかった。
載っていたのは「270,300円+1%」という表記だけで、1%がどこから始まるかは書かれていない。
これは考えてみれば当然で、基準額は独立した制度上の数値ではなく、定額部分から機械的に決まる副産物にすぎない。
区分ウの、確定している1点から関係式を立てた
唯一裏が取れている区分ウの数字を使って、定額部分と基準額の関係を調べた。
85,800 ÷ 286,000 = 0.30.3、つまり3割。
高額療養費の対象になる患者は、窓口でまず3割を負担する人たちだ。
基準額に3割の窓口負担率をかけると、ちょうど定額部分と同じ数字になる。
言い換えると、基準額というのは「その金額の医療費を3割負担で払ったら、ちょうど定額部分と同じ額になる」総医療費のことだった。
3割負担の窓口では、限度額に頼らなくても自然にその金額を払うことになる。
基準額から先だけ1%を追加で見る、という制度の作りが、この関係式にそのまま表れていた。
この式で、区分ア・イの基準額を逆算した
基準額 = 定額部分 ÷ 0.3区分ア:270,300 ÷ 0.3 = 901,000円
区分イ:179,100 ÷ 0.3 = 597,000円
901,000円は、解説記事の「901,000円」派と一致した。
597,000円も、記事の「597,000円」派と一致した。
関係式から出てきた数字が、根拠を書いていない解説記事の一方とだけ一致したので、こちらを採用することに決めた。
それでも「確定」とは書かなかった
この2つの数字は、あくまで関係式からの逆算であって、厚生労働省の告示に直接書かれている値ではない。
だから README にも、コードのコメントにも、`_docs/制度更新チェックリスト.md` にも「区分ウ以外は逆算による推定値」と明記した。
正式な告示や事務連絡が別途出て、もし違う数字が書かれていたら、そちらを正としてすぐ直すつもりでいる。
制度データを扱うシミュレーターを作っていて何度も思うのは、「たぶん合っている」を「合っている」と書かないことの大事さだ。
このゲームの免責バナーに「唯一の正解ではなく、1つの計算モデルによる試算」と書いたのは、この基準額の件だけの話ではないけれど、いちばん最初に手を止められた場面ではあったと思う。
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