家で切って持っていける野菜と、切ったら終わりの野菜がある
前の晩に全部切って詰めたら、翌日の昼に半分が使い物にならなかった。
線引きを覚えるまで、同じ失敗を何度かした。
出発の前の晩に、使う野菜を全部切って袋に詰めた。
現地で火を起こしてから包丁を出すのが面倒だったからだ。
翌日の昼、袋を開けたら半分が使い物にならなかった。
なすは切り口が茶色を通り越して黒くなっていて、レタスは断面が赤く錆びたようになっていた。
きゅうりから出た水が袋の底に溜まって、隣に入れていたものまで湿っていた。
切って持っていける野菜と、切ったら終わりの野菜がある。
その線引きを覚えるまで、僕は何度か同じ失敗をした。
切った瞬間から始まっていること
野菜は収穫されたあともしばらく生きている。
畑をやっていた頃、採ったばかりの野菜が箱の中でほんのり温かいのを何度も触った。
息をしていて、熱を出している。
そこへ刃を入れると、三つのことが同時に始まる。
ひとつは水が出ること。
切り口は蓋のない断面なので、そこから中の水分が出ていく。
出た水は袋の底に溜まって、他のものを傷ませる。
ふたつめが色の変化。
空気に触れた面から色が変わる。
茶色くなるもの、黒くなるもの、赤くなるものがあって、これは野菜ごとに決まっている。
みっつめが、傷んだところが移ること。
切り口は傷口でもあるので、そこから先にだめになる。
ひとつがだめになると、袋の中の他のものを引っ張っていく。
切って持っていける野菜
持っていけるのは、硬くて水分の少ないものだ。
玉ねぎは強い。
くし形でも輪切りでも、前の晩に切って翌日の昼まではまったく問題がない。
においが移るので、袋は必ず単独にする。
にんじんも強い。
皮をむいて棒状にしておけば、翌日どころか二日目でも使える。
かぼちゃは切るのが現地だといちばん大変な野菜なので、家で切っていくと効果が大きい。
種とわたを取ってから切ると、傷むもとが減る。
じゃがいもは切れるけれど、ひと手間いる。
切ったら水に十分ほどさらして、しっかり水気を拭いてから袋に入れる。
さらさないと黒くなる。
拭かないと今度は水が出る。
両方やらないと片方の失敗をする。
キャベツは芯を付けたまま、大きめのざく切りまでにしておく。
細かく切るほど断面が増えて、増えたぶんだけ早く傷む。
切ったら終わりの野菜
なすは、家で切ってはいけない野菜の代表だ。
切り口が変わるのが早いし、水にさらしても現地に着く頃には色が抜けている。
丸のまま持っていって、焼く直前に切る。
レタスは、そもそも包丁を入れないほうがいい。
切り口が赤く変わるので、手でちぎる。
これは板場で最初のほうに教わったことで、理由は説明されなかったけれど、やってみれば違いは一目で分かる。
トマトときゅうりは、切ると水が出る。
しかも出る量が多い。
この二つを切って他の野菜と同じ袋に入れると、袋の中で全体を濡らす。
丸のまま持っていくのが正解で、どうしても切っていくなら単独の容器に入れる。
もやしは、切る切らない以前に足が早い。
初日の夜に使うと決めて買うか、持っていかないかのどちらかにしている。
板場でやっていた分け方を、そのまま持ち込んだ
店では、まな板の上を用途で分けていた。
生で出すものと、火を通すもの。
この二つを混ぜないというだけの決まりごとだ。
同じ分け方をクーラーボックスの中でやるようになってから、事故が減った。
火を通す野菜の袋、生で食べる野菜の袋、水の出るものの容器。
袋を三つに分けるだけで、ひとつがだめになっても連鎖しない。
水の出るものは、必ず上に置く。
下に敷くと、上のものが全部その水に浸かる。
クーラーボックスの中で冷たい空気は下に落ちるので、下に置きたくなるのだけれど、そこは我慢する。
切る順番の考え方はまな板を買い足す前に切る順番を変えた回に書いたとおりで、家で切る場合も同じ順番でやると洗い物が減る。
魚を持っていく日の下ごしらえは家でやっておく下ごしらえの回にまとめてある。
いまの積み方
前の晩にやるのは、玉ねぎ・にんじん・かぼちゃ・じゃがいも・キャベツまで。
なす・トマト・きゅうり・レタスは丸のまま積んで、現地で切る。
これで、現地で包丁を握る時間は五分ほどになった。
全部切っていったときと比べれば長いけれど、着いてから半分捨てることに比べたら、はるかに短い。
面倒を前の晩に寄せるのは正しい。
ただ、寄せられるものと寄せられないものがある。
寄せてはいけないものまで寄せると、前の晩の一時間ごと無駄になる。
道具の話はおすすめギアの一覧にまとめてあるけれど、今回に関しては買い足すものは何もない。
切るか切らないかを決めるだけだ。