2.8兆のAIが、無料で公開された。ただし、うちの機械では1バイトも動かない
重みを配ることと、誰でも使えるようにすることは、別の話だった。
開いているのに手が届かない、という状態を初めて見た気がする。
朝、いつものように更新を眺めていて手が止まった。
中国の Moonshot AI が、Kimi K3 というモデルの重みを誰でもダウンロードできる形で公開した、と書いてある。
すごい話だと思って読み進めて、途中で笑ってしまった。
ファイルの大きさが 1.4TB だった。
何があったのか
Kimi K3 は、2026年7月16日にまずAPIとして使えるようになっていたモデルで、重み本体が7月27日に公開された。
パラメータの総数は2.8兆。公開されている重みとしては、いまのところ最大級とされている。
ただし毎回2.8兆すべてが動くわけではなく、担当する部分を切り替えて使う仕組みで、ひとつの語を処理するときに実際に動くのは500億ほどらしい。
一度に読める長さは100万トークン。
配られているファイルは4ビットまで圧縮した形式で1.4TB、圧縮前だと5.6TBほど。
動かすには80GBのアクセラレータが最低18枚、あるいはそれに相当する構成が要ると書かれている。
性能について、開発元はいくつかの最上位モデルにはまだ届かないとしつつ、それ以外の評価では上回ったと説明している。
コーディング系の特定のベンチマークでは最上位を抜いた、という報道も出ていた。
僕がひっかかったところ
ひとつめ。「オープン」という言葉が、いつのまにか二つの意味に割れている。
中身を見られる、という意味では確かに開いている。
誰でも動かせる、という意味ではまったく開いていない。
1.4TBを落とせる回線と、80GBのカードを18枚並べられる場所を持っている個人は、そういないと思う。
ふたつめ。それでも、公開されたこと自体には意味がある。
自分で動かせなくても、動かせる誰かが安く貸してくれる。
値段の下がり方が、閉じたモデルだけの世界とは変わってくる。
みっつめ。ここが僕にはいちばん重い。
選択肢が増えたように見えて、選べる場所は増えていない。
結局は、大きな計算機を持っている誰かの上で動かすことになる。
重みが公開されても、電気とカードを持っている側が強いという構造は、そのままだ。
で、僕はどうするか
手元で動かすという選択肢は、きれいに消えた。
2.8兆のモデルを自宅の機械に載せる日は、少なくとも当分は来ない。
そのかわり、使う側として決めたことがひとつある。
文章を下書きさせるとか、コードの間違いを探させるとか、そういう日々の作業を特定の一社に握らせない。
同じ仕事を別のモデルでも回せるように、頼み方のほうを共通にしておく。
公開される重みが増えるのは、その保険が効きやすくなるということでもある。
サービスが終わっても、値上げされても、乗り換え先が残っている。
個人でやっている僕にとっては、性能の順位より、そっちのほうがずっと現実的な話だ。
1.4TBは落とせない。
でも、落とせる誰かがいる世界のほうが、たぶん僕には都合がいい。