掘りたてのさつまいもが甘くなかった。焚き火に入れる前に、待つ時間がいる

直売所の泥つきの芋を、その日の焚き火で焼いたら甘くなかった。
畑にいた頃に教わったことを、すっかり忘れていた。

八月の終わりの直売所に、泥のついたさつまいもが並びはじめた。

掘りたてです、と札が出ていて、それが売り文句なのだと思って一箱買った。
その日の夕方、焚き火の熾きに放り込んで一時間半。
ほくほくには焼けたのに、甘くなかった。

畑をやっていた頃にさんざん言われていたことを、僕はすっかり忘れていた。
芋は、掘った日がいちばん美味しくない。

掘りたては、まだ甘くなっていない

野菜は採れたてがいちばん、という感覚が体に入りすぎていた。

葉物ならそのとおりだ。
とうもろこしなんてその日のうちに火を入れないと甘さが逃げるくらいで、待つ理由がひとつもない。

さつまいもは逆だった。
掘った直後の芋は、甘みのもとをまだ甘さの形で持っていない。
しばらく置いておくあいだに中身が変わって、そこでようやく甘くなる、と教わった。

だから産地では、掘ってすぐ全部を出荷しない。
倉庫でひと月、ふた月と寝かせたものが冬に出てくる。
焼き芋屋の芋がやたら甘いのは、腕というより時間だったのだと思う。

待つあいだに、中で何が起きているのか

細かいところまで説明できるほど詳しくはないので、教わった範囲で書く。

芋の中身の大半はでんぷんで、これはそのままだと甘くない。
貯蔵しているあいだに水分が少し抜けて、でんぷんが糖に変わっていくと言われている。
それだけでなく、加熱したときにでんぷんを分解して甘くする働きが、寝かせた芋のほうがよく出るらしい。

産地では掘ったあと、温度と湿度を高くした部屋に数日入れる処理をすることがある。
傷口をふさいで長く置けるようにするためのもので、これをやってから貯蔵に回る。
このあたりは設備がないと真似できないので、うちでやるのは単純に置いておくだけだ。

家庭でも二週間から一か月ほど置くと違いが出る、というのが僕の実感になる。
同じ畑の同じ品種で、掘った日に焼いたものと三週間置いたものを食べ比べたことがあって、あれは別の野菜かと思うくらい差があった。

置き方をひとつ間違えると、待った意味がなくなる

寝かせるといっても、冷蔵庫に入れてはいけない。

さつまいもは寒いところが苦手で、冷やしすぎると味が落ちるし、傷みも早くなる。
新聞紙にくるんで、段ボールに入れて、家の中の涼しいけれど冷えすぎない場所に置く。
それだけでいい。

洗わないのも大事だと思う。
泥がついたまま置いたほうが長くもつので、直売所で泥つきが売られているのには理由がある。
洗うのは食べる直前でいい。

車で持ち帰るときも、後ろの荷室に転がしっぱなしにすると皮に傷が入る。
傷が入ったところから先に悪くなるので、箱のまま積んで、上に重いものを乗せない。
このへんは夏の直売所で車に積める野菜の回と同じ考え方になる。

かぼちゃも同じで、切ってから分かる

かぼちゃにも同じことが起きる。

収穫してすぐのものは水っぽくて、ほくほくにならない。
こちらも一、二週間ほど置くと味が乗ってくると言われていて、丸のままなら涼しい場所でしばらく持つ。
切ったあとは別で、種とわたを取って冷蔵庫へ入れて早めに使う。

直売所で丸ごとのかぼちゃが安いとき、僕はすぐ食べる予定がなくても買うようになった。
置いておく時間が味方になる野菜だからだ。

桃はまた仕組みが違うらしい。
置いておくと柔らかくなって香りが立つけれど、芋のように甘さそのものが増えるのとは別の変化だと聞いた。
見分け方は直売所の桃の回に書いたとおりで、あちらは待つというより、いま食べ頃かを見る話になる。

焚き火で焼くなら、強い火ではなく長い時間

寝かせた芋を持っていったら、今度は焼き方でつまずいた。

炎の中に入れると外側だけ炭になって、中は火が通っていない。
甘くする働きは、そこそこの温度をゆっくり通っていくあいだに進むので、急いで高い温度に当てても甘くならないのだと思う。

いまやっているのは、炎が落ちて熾きになってから、灰をかぶせて端のほうに置く。
アルミホイルの前に濡らした新聞紙を巻くと、乾きすぎずに中まで火が入る。
太いもので一時間から一時間半、途中で一度だけ転がす。

竹串がすっと通って、切れ目から蜜が出ていたら成功だ。
急いだ日はだいたい失敗する。

待たなくていいものと、待たないと駄目なもの

直売所に通うようになって、野菜が二つに分かれることが分かってきた。

その日のうちに食べたほうがいいもの。
とうもろこし、枝豆、葉物、きのこ。
こちらは時間が敵で、買った日の献立を決めてから買う。

置いたほうが美味しくなるもの。
さつまいも、かぼちゃ、里芋、玉ねぎ。
こちらは時間が味方で、買うときに食べる日を決めなくていい。

この二つを混ぜて同じ箱に入れて持ち帰っていたのが、そもそもの間違いだったと思う。
いまは車に積む段階で分けている。
すぐ食べるほうはクーラーボックスへ、待つほうは新聞紙にくるんで箱へ。

掘りたてが美味しくないというのは、少し変な言い方かもしれない。
ただ、掘った時点ではまだ途中なのだと思えば納得がいく。
畑から出たあとにも、まだ続きがある野菜がある。

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