テントのファスナーが渋くなった。油を差す前に、やることがあった

撤収のときに入口のファスナーが途中で止まって、力を入れたら生地を噛んだ。
帰り道に潤滑剤を買おうとして、思いとどまった。
引っかかっていたのは、油が切れていたからではなかった。

河原のキャンプ場で撤収していたときだった。
テントの入口のファスナーが、途中で止まった。
もう一度引いたら、今度は内側の生地を噛んだ。
無理に戻したら、生地に小さな折り目みたいな跡が残った。
帰りに潤滑剤を買って帰るつもりでいたが、調べていくうちに、その順番だとかえって悪くなると分かった。

渋くなる原因は、たいてい砂

ファスナーの歯と歯のあいだには、思っているより隙間がある。
そこに細かい砂やほこりが入り込む。
海辺、河原、砂利敷きの駐車場。
テントは口が地面のすぐ上にあるので、開け閉めのたびに下から拾い上げている。

砂が挟まったままスライダーを通すと、金属やプラスチックの歯を砂が削っていく。
引きが重い、というのは削れている最中の音でもある。
渋いまま力で押し通していると、あるとき歯のほうが負ける。
このとき僕がしようとしていたのは、削っている砂の上から油をかけることだった。

まず落とす。滑らせるのは、そのあと

砂が乗ったところに潤滑剤を差すと、油分が砂を抱き込んで、練り物みたいなものができる。
滑るどころか重くなるし、砂を歯に貼り付けて逃げ場をなくしてしまう。
順番が逆だと、良かれと思ってやったことがそのまま悪化になる。

正しい順番は、乾いた状態でまず掃くことだった。
ファスナーを開いて、左右の歯の両面をブラシで掃く。
歯ブラシでも足りるが、太さの違うものが何本かあると隅まで届く。
そのあと固く絞った布で拭いて、完全に乾かしてからしまう。
濡れたまま畳むと、今度は錆と匂いのほうが来る。
本体ごと洗ったときの話は前に書いたけれど、あのときもファスナーだけは別に手をかけていた。

そのあとで滑らせる。ただし油ではない

掃除が済んでから、はじめて滑りを戻す。
ここで手が伸びやすいのが、家にある潤滑スプレーだ。
僕もそう思っていたが、やめておいたほうがいい。
油は、ほこりと砂を呼ぶ。
いま落としたばかりのものを、また集めることになる。
そのうえ生地に垂れるとシミが残るし、防水の加工を傷めることもある。

使うのはファスナー専用のもの、成分でいうとシリコン系のほうだ。
ろうそくのロウを歯の外側にこすりつけるやり方もあって、これは昔からある。
どちらにしても、つけたあと何度か開け閉めして馴染ませ、はみ出したぶんは拭き取る。
たっぷり塗るものではない。
薄く、歯の外側だけ。

それでも直らないときは、部品のほう

掃除して滑りを戻しても駄目な場合がある。
症状で切り分けると分かりやすかった。

引きが重いだけなら掃除の話。
閉めたそばから後ろが開いてしまうなら、スライダーの内側がすり減っていて、歯を噛み合わせきれていない。
これは掃除では戻らないので部品を替えることになる。
テント本体のものは号数を合わせる必要があるし、生地を傷めずに付け替えるのは骨が折れるので、高いテントならメーカー修理に出したほうが早い。

いちばん多くて、いちばん簡単なのがつまみの破損だ。
引き手が折れた、紐が切れた、というだけなら本体はまだ生きている。
交換用の引き手が数百円で手に入るので、それを通せば元どおり動く。
僕はここで一度、テントごと買い替えを考えかけた。
直るものを捨てるところだった。

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壊す動作を、やめる

手入れより先に効いたのは、引き方を変えたことだった。

ひとつ、斜めに引かない。
スライダーは歯に対してまっすぐ進むようにできていて、角度がつくと片側の歯だけを強く押す。
急いでいるときほど斜めに引いている。

ふたつ、片手で引かない。
もう一方の手でファスナーのすぐ後ろの生地を押さえると、生地が寄ってこないので噛まない。
噛む事故はほとんどこれで消えた。

みっつ、噛んだときに力で押し通さない。
少し戻して、噛んでいる生地を指でつまんで抜く。
そのまま引き続けると、生地のほうに穴が開く。

テントの寿命は生地で決まると思っていた。
実際に先に来るのは、たいていファスナーのほうだった。
生地は縫えるし、水を弾かなくなっても手をかければ戻る
ファスナーは、開かなくなった時点でその日の宿が終わる。
ブラシで三分掃くだけで何年か延びるなら、安いものだと思う。

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