百社が名前を並べて「備えろ」と言った手紙に、AIが書いたコードの話が一行だけ混じっていた
署名の欄にCloudflareもGitHubもGoDaddyも並んでいて、うちの足元が全部そこにあった。
巨大な会社ばかりの文書の中で、名指しされていたのは僕が毎日やっていることだった。
百社を超える会社が連名で出した手紙を読んだ。
署名の欄が長い。上から目で追っていくと、Cloudflare、GitHub、GoDaddy、Shopify、Vercel、Firefox、Hugging Face と並んでいる。
どれもうちのサイトが日常的に乗っている、あるいは触っている場所だ。
大企業とインフラの話だと思って開いた文書に、僕の足元が全部並んでいた。
そのうえで本文を読んだら、一行だけ、明らかに僕に向けて書かれた箇所があった。
何があったのか
2026年8月27日、OpenAI、Anthropic、Google、Microsoft、Amazon をはじめとする100社以上が、サイバー防御についての公開書簡を出した。
署名にはセキュリティ専業の会社も金融機関も入っている。
CrowdStrike、Palo Alto Networks、Okta、Fortinet、Cisco、IBM、Oracle、SAP、Red Hat。
Visa、Mastercard、PayPal、Citi、Capital One。
AMD、Arm、Micron、Dell、Broadcom、AWS、Cloudflare、Akamai、Equinix。
手紙の書き出しはこうだ。
「守りを固める時間は限られている。これから数か月のうちに、AIを使ったサイバー攻撃はいまよりずっと広く、ずっと高度になる。世界中でモデルの能力が上がっていくからだ」
危ないものとして名前が挙がっているのは、病院、浄水場、そしてインターネットを動かしている基盤。
ただ悲観だけの文書ではなくて、いまのAIの進歩は守る側にとっても長年たまった弱点を直す新しい手段になっている、と続く。
決断して動けば、守る側に開いているこの窓を使える、という言い方をしている。
呼びかけの相手は四つに分かれている。
ひとつめが「すべての組織」。
ふたつめが「セキュリティ会社と技術パートナー」。
みっつめが「政府」。
よっつめが「フロンティアAI企業」。
政府への要求ははっきりしている。
防御に金を出せ、それも人員か予算が足りなくて動けない必需サービスから始めろ。
病院、水道、自治体に、まともな防御用のAIと、認められた形での試験と、実際に手を動かす支援を届けろ。
攻撃する側にコストを払わせろ。
AI企業への要求も具体的だ。
モデルへの責任あるアクセスと、資金と、訓練と、実地の支援を提供しろ。
エージェントの身元をたどれて責任を問える形にしろ。
道具と手順書と信頼できる脅威評価を、政府やセキュリティの相手先、それからオープンソースの維持管理者と共有しろ。
僕がひっかかったところ
ひとつめ。「01 すべての組織」の項目に、この一行があった。
買うもの、作るもの、動かすものについて、セキュリティの基準を上げること。
そこに括弧書きで、AIが生成したコードを含む、と書いてある。
百社の巨大な会社が名前を並べた文書の中で、名指しで基準を上げろと言われている対象に、僕が毎日やっていることが入っていた。
このサイトのCMSは自分で書いていて、その相当な部分をAIと一緒に書いている。
病院でも浄水場でもないが、この一行だけは完全に僕の話だった。
ふたつめ。「すべての組織」に並んでいる弱点の一覧が、身に覚えのあるものばかりだった。
長く放置されたバグ。過剰な権限。設定の誤り。安全でない、あるいは更新されていないソフトウェア。弱い認証。古いシステムに溜まった技術的負債。
これを読んで、うちに無いものを探したが、見つからなかった。
全部ある。
しかも全部、前から知っていて後回しにしてきたものだ。
百社が連名で言い出す前から知っていた、というのがいちばん気まずい。
みっつめ。予算のない組織を助けろ、という話の対象に、僕らは入っていない。
手紙が助けろと言っているのは病院と水道と自治体で、それは正しい優先順位だと思う。
ただ、そこに個人や小規模のサイトは含まれない。
守る側の窓が開いていると言われても、その窓の前に立たせてもらえる順番は最後のほうだ。
自分でやるしかない、という話として読んだ。
よっつめ。この手紙を出した側が、同時に攻撃に使える能力を持ったモデルを作っている側でもある。
報道の中にも、署名した会社が防御の商品を売りながら、その脅威の源になるモデルも作っているという指摘があった。
そのとおりだと思う。
ただ、だから信用しないという読み方はしない。
いま守る側に窓が開いているという見立ての部分は、たぶん本当だ。作っている本人たちが言っているぶん、精度は高い。
いつつめ。速さのこと。
今月25日に、AIが評価用の環境を自分で見つけたゼロデイで抜け出して、よそのサーバーに入っていた話を書いた。
あのときは、止めたのが僕らではなく作っている側だった、という一点を書いた。
それから一か月も経たずに、その作っている側が百社の連名で「時間がない」と言い出している。
出来事から連名の書簡までがこの速さというのは、僕の記憶にはない。
で、僕はどうするか
手紙の「01 すべての組織」を、うちの規模に翻訳した。四つになった。
ひとつ。管理画面のユーザーと権限を数える。
過剰な権限、というのはうちの場合、もう使っていないアカウントと、必要以上に強い権限で作った自分用のログインのことだ。
数えたら、思っていたより多かった。
ふたつ。AIに書かせたコードを通す基準を上げる。
動いたら通す、をやめる。
特に、入力を受け取るところと、ファイルを扱うところと、SQLを組み立てるところ。
この三か所は、動いていても目で追うことにした。
みっつ。認証をひとつ強くする。
管理画面は二段階にしてあるが、レンタルサーバーの管理画面とドメインの管理画面が甘かった。
乗っ取られて困る順で言えば、こちらのほうが先だ。
よっつ。乗っている土台の告知先を一か所にまとめる。
サーバー、CDN、決済、ドメイン。どこがどこに障害と侵害を出すのかを、一枚にした。
署名リストにうちの足元が並んでいるのを見て、これは作っておくべきだと思った。
そのうえで、怖がって手を止めるのはやめる。
この手紙は、脅かすためではなく「いまなら守る側が先に動ける」と言うために書かれている。
読んで一日固まっているより、権限を数えるほうが早い。
いちばん刺さったのは、実は危機を訴えている部分ではなかった。
長く放置されたバグ、過剰な権限、設定の誤り、と並んだところだ。
百社が名前を連ねて言わないと、僕は自分のサイトの権限を数えなかった。
出典
- A call for collective action on cyber defense(公開書簡本文・署名一覧)
- TechCrunch「OpenAI, Anthropic, Google, and 100 other companies call for action to defend against rogue AI」(2026年8月27日)
- TheWrap「OpenAI and Over 100 Tech Companies Call for Collective Action on Cyber Defense」
※ 手紙の日本語は、原文を読んで僕が訳したものです。内容は2026年8月29日に確認した時点のものです。
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