焼けば大丈夫、が通じない魚がある。夏に青魚を車で運ぶときの話
火を通せば安心、と思っていた。
青魚だけはその考え方が通らないと知ったのは、仕事を始めてしばらく経ってからだった。
夏の道の駅で、氷の上に並んだアジやサバを見ると、つい手が伸びる。
安いし、夕方に焼けばいいと思う。
ただ僕は青魚だけ、買ってから食べるまでの段取りを先に決めてからでないと買わない。
火を通しても消えないものがあるからだ。
焼いても消えないものがある
青魚には、ヒスチジンというアミノ酸が多く含まれている。
魚に付いている菌の酵素がこれに働くと、ヒスタミンという別のものに変わる。
このヒスタミンが厄介で、一度できてしまうと調理の加熱では分解されない。
つまり「少し怪しいけれど、しっかり焼けば大丈夫」が通らない。
煮ても揚げても、できてしまったぶんはそのまま残る。
冷凍しても同じで、菌が増えるのは止まるけれど、すでにできたものは減らない。
対象になるのはマグロ・カツオ・イワシ・ブリ・サンマ・サバといった赤身の魚で、東京都のまとめでは原因としていちばん多いのがブリ、次いでイワシ・シイラ・サンマだそうだ。
干物のような加工品でも起きる。
出方が早く、見た目では分からない
食べた直後から一時間以内に、顔、特に口のまわりや耳たぶが赤くなる。
じんましん、頭痛、吐き気、下痢が出ることもある。
ひどいときは呼吸が苦しくなる。
症状がアレルギーとよく似ているので、魚が体に合わなくなったのだと思い込む人がいる。
実際には保存のしかたの問題なので、次に新しいものを食べれば何ともない。
怖いのは、見た目でも匂いでも分からないことだ。
手がかりはひとつだけあって、口に入れたときに舌がピリピリする。
あれが出たら、もったいなくてもそこでやめて捨てる。
夏の車が、いちばん条件を揃えてしまう
冷たいところでも少しずつ働く菌がいるので、冷蔵していれば絶対に安心とも言い切れない。
ただ、速さがまるで違う。
温度が高いほど早く進むので、真夏の車内に置いた数時間はまるまる効いてしまう。
買い物の途中で助手席に置いておくのが、いちばんまずい。
外の気温より車内のほうがずっと高くなることは、サンシェードの回で実測値を並べたとおりだ。
僕がやっている四つ
ひとつめ。青魚は買い物のいちばん最後に買う。
先に買って回ると、それだけで一時間や二時間はあっという間に経つ。
ふたつめ。エラと内臓を早く外す。
菌がいちばん多いのはそこなので、店で処理してもらえるならその場で頼む。
自分でやるなら、車に積む前に済ませたほうがいい。
みっつめ。氷や保冷剤にきちんと当てる。
クーラーボックスに入れた、で満足しないで、袋の上から冷たいものが触れている状態にする。
隙間が空いているほど中の温度は上がるので、詰め方はクーラーボックスの回のほうが詳しい。
よっつめ。その日のうちに火を入れる。
明日の朝に焼こう、が夏はいちばん危ない。
怖がる話ではなく、順番の話
仕事で魚を扱っていた頃に教わったのは、難しい理屈ではなかった。
氷から出したら手を止めるな、それだけだった。
理由を知ったのはずいぶんあとで、知ってからのほうが横着をしなくなった。
青魚は安くて旨い。
夏に避ける必要はないと思う。
買ってから食べるまでを短くする、その一点だけ決めておけば、外でも家と同じように食べられる。
火を入れる道具のほうはギアの一覧にまとめてある。