朝、エンジンがかからなかった。前の晩に使っていたのは、走るための電気だった

車中泊の翌朝、キーを回してもカチカチと鳴るだけだった。
車のバッテリーは、夜を過ごすためのものではなかった。

山あいの駐車場で一泊した翌朝、キーを回してもエンジンがかからなかった。

カチカチと小さい音が鳴るだけで、あとは静かなものだった。
前の晩にやっていたのは、室内灯をつけて本を読んだことと、スマホを二台充電したことくらい。
その程度で上がるとは思っていなかった。

結論から書くと、僕は車のバッテリーの役割そのものを取り違えていた。

あれは、エンジンを回すための道具だった

車に積まれているバッテリーは、家電を動かすための電池とは仕事が違う。

いちばんの役目は、エンジンをかける一瞬に大きな電流を出すことだ。
始動さえしてしまえば、あとは走りながら充電される側に回る。
短く強く働いて、あとは補充してもらう。
そういう使い方に合わせて作られている。

これを、夜通し少しずつ使い続ける電源として使うと無理が出る。
しかも一般的な鉛のバッテリーは、深く使い切るような使い方が苦手だとされている。
一度大きく減らしてしまうと、そのぶん寿命が短くなると言われていて、実際うちの一本もその後ひと冬もたなかった。

エンジンを切ったあとに使っていい電気ではなかった、というのが正しい理解だったと思う。

気づけなかったのは、数字を見ていなかったからだ

あの晩、僕には「まだ大丈夫」という感覚しかなかった。

室内灯はついている。
スマホも充電できている。
だから残っていると思っていた。

ところが灯りがつくかどうかと、エンジンを回せるかどうかは別の話だ。
小さい電流で足りるものは最後まで動くし、大きな電流を要求するものだけが先に駄目になる。
つまり、いちばん困る形の故障が、いちばん最後まで隠れている。

いまはシガーソケットに挿すタイプの電圧計を入れっぱなしにしている。
寝る前と朝に数字を見るだけで、減り方が目に見える。
満充電の目安はおよそ12.6ボルト前後、12ボルトを切ってきたら危ないという言い方をよく見かける。
車種や気温で変わるので、正確なところは取扱説明書を見たほうがいい。

数字が出るようになってからは、感覚で判断しなくなった。
これがいちばん大きい変化だったと思う。

いちばん効いたのは、電気を二つに分けたこと

そもそもの解決は、走るための電気と、夜を過ごすための電気を分けることだった。

照明もスマホの充電も、車のバッテリーから引かなければ何も起きない。
ポータブル電源をひとつ積むだけで、朝かからないという心配ごと自体が消える。
このあたりはエンジンを切ったあとの電源をどこから引くかの回に詳しく書いた。

いま思うと、電源の話をしていたつもりで、実は事故を防ぐ話をしていた。

それでも上がったときのために、車に積んでいるもの

分けても、上がるときは上がる。
ライトの消し忘れもあるし、古くなったバッテリーは何もしなくても弱っていく。

昔は、助けてくれる車を見つけてケーブルをつなぐしかなかった。
長距離を走っていた頃は、それが当たり前だった。
いまは自分ひとりで始動させられる道具がある。

積んでいるのは三つ。
ひとつめが、手のひらに乗るジャンプスターター。
これ一台で始動できるので、周りに車がいない場所ほどありがたい。
ふたつめが、さっき書いたシガーソケットの電圧計。
上がる前に気づくための道具で、値段はいちばん安いのに出番はいちばん多い。
みっつめが、昔ながらのブースターケーブル。
自分のためというより、困っている車を見つけたときのために置いている。

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買ったあとに知った、三つの注意

ジャンプスターターは、買って積んでおしまいにできない道具だった。

まず、本体そのものが充電を切らす。
使わないまま置いておくと少しずつ減っていくので、半年に一度くらいは自分で残量を見て足している。
いざというときに本体が空、というのがいちばん間抜けな失敗だと思う。

次に、置き場所。
夏の車内は相当な温度になるので、ダッシュボードの上のような場所は避けている。
いまは座席の下に入れていて、日が当たらないぶん少しは持ちがいいはずだ。

最後に、つなぎ方は必ず説明書を読むこと。
ケーブルでつなぐ場合の順番や、ハイブリッド車を救援側に使ってよいかどうかは車種で違う。
ここは自己流でやると壊す側に回るので、実際に使う前に一度読んでおいたほうがいい。
ケーブルを選ぶときは、長さと太さが足りているかも見ておきたい。
細すぎると必要な電流が流れず、つないでも回らないことがある。

寒くなってからのほうが、はっきり出る

夏に平気だったのに、冬になって急に来ることがある。

気温が下がるとバッテリーは本来の力を出しにくくなると言われていて、
そこにエンジンが冷えて回りにくくなるぶんが重なる。
つまり、必要な力が増える時期に、出せる力が減る。

そして何年も使ったものは、前触れらしい前触れがない。
交換の目安はおよそ三年から五年という言われ方をするが、使い方でずいぶん変わる。
短い距離ばかり走っていると充電が追いつかないので、そのぶん早く来る。

うちは車中泊で使うぶん、条件としてはよくないほうだと思っている。
だから年数より、電圧計の数字のほうを信じることにした。

止まってからでは、選べることが少ない

あの朝、僕は結局、通りかかった軽トラックの方に助けてもらった。

電波の弱い場所で、呼べるかどうかも分からなかった。
困ったのは動けないことより、自分で選べる手が何も残っていなかったことだ。

いま積んでいる三つは、どれも数千円のものだ。
あの朝の一時間を思えば、安いほうだと思っている。
車中泊で増やすべき道具はいろいろあるけれど、順番でいえばこれがかなり前に来る。

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