キャンプの包丁は、現場では研がない。家に帰ってからの三分で決まる
切れなくなった包丁は、刃が減ったのではなく丸くなっている。
砥石一本で戻せる、家でやる研ぎの話。
帰ってきた翌日、台所でトマトを切ったら潰れた。
キャンプに持っていった包丁を、そのまま流しに置いていたやつだった。
前に「持っていく包丁は一本でいい」と書いた。
あのとき、現場では研がないとも書いた。
その続きが今日の話になる。
切れないのは、減ったのではなく丸くなっているから
包丁の刃先は、拡大すればごく細い角になっている。
その角が、まな板に当たるたび、骨や皮に当たるたびに、少しずつ潰れて丸くなっていく。
丸くなった刃は、食材の表面を押すだけで中に入っていかない。
だから力を入れる。
トマトが潰れるのも、玉ねぎで目が痛くなるのも、切っているのではなく押しつぶしているせいだ。
研ぐというのは、この丸まった先を削り落として、角をもう一度立て直す作業になる。
鋼を減らしているのだから、やりすぎればもちろん痩せていく。
ただ家庭で使う頻度なら、何十年も使えるだけの厚みがある。
家に置く砥石は、一本でいい
道具屋に行くと荒いものから細かいものまで並んでいて、そこで迷って買わずに帰る人が多いと思う。
僕が家に置いているのは中くらいの粗さのもの、番手で言えば千番あたりの一本だけだ。
刃が欠けているなら荒いものが要るし、剃刀のような切れ味が欲しいなら細かいものを足すことになる。
外で肉と野菜と魚を切るぶんには、中くらいの一本で足りる。
使う前に、水に浸けておく。
泡が出なくなるまでで、だいたい五分から十分。
乾いた砥石で研ぐと、削れた金属の粉が目に詰まって滑らなくなる。
濡れた布巾を下に敷いて、砥石が動かないようにしておく。
動く砥石の上で角度を保つのは、慣れた人でも難しい。
寝かせて、押すときだけ力を入れる
角度は、思っているよりずっと寝かせる。
刃を砥石に付けて、峰の下に十円玉を二枚重ねて挟んだくらい。
家庭の包丁ならそのあたりが目安になる。
その角度を保ったまま、押すときに力を入れて、引くときは力を抜く。
速く動かす必要はない。
同じ角度で二十回も三十回も往復できるかどうかだけが効いてくる。
研げてきたかどうかは、指で確かめられる。
刃先の反対側の面をそっとなでると、ざらりと引っかかる感じが出る。
削られた金属が薄く出ているところで、これが出たら片面は終わり。
裏返して、同じ角度で今度は軽く、半分くらいの回数でそれを落とす。
最後に新聞紙の切れ端を切ってみる。
すっと落ちれば十分だし、引っかかるならもう少し続ける。
握っていた頃は毎日やっていたけれど、家庭の包丁を毎日研ぐ必要はない。
外で使ったあとに一度、あとは切れが落ちたと感じたときで足りる。
研いだあとの置き場所で、次の切れ味が決まる
ここを飛ばすと、せっかく研いでも次に出したときには元に戻っている。
まず、濡れたまましまわない。
洗ったら拭いて、少し置いて完全に乾かす。
鞘やケースに水気ごと入れると、中でずっと湿っているのと同じことになる。
刃先を何かに当てて置かないのも大事だ。
流しの中で他の鍋に触れているだけで、あの細い角は簡単に潰れる。
僕は厚紙を折った簡単な鞘に入れて、道具箱の中で寝かせている。
外に持っていくときは、刃を覆って、他の金物と当たらないところに入れる。
包丁と一緒に入れる道具を選ぶ話は、調理まわりのギア一覧のほうにまとめてある。
研ぐのは技術というより、順番の話だと思っている。
外で切れ味を上げようとしないで、帰ってからの三分に回す。
それだけで、次に開けたときの一本目の切り込みが変わる。